コラム 中村 晋

コラム1-4 受注すべきか?せざるべきか?(管理会計のお話)

2022/11/14

 今回は製販会議が舞台です。荒製作所では、月に1回の製販会議で生産・販売それぞれの計画をすり合わせています。今回は、大手ユーザーA社からの注文を受けるかどうかで激論になっています。

何でもめとるニャン?

 荒製作所の主力製品であるABC-10の定価は1,000万円、予定原価は800万円です。A社には通常10%程度の値引き販売をしていますが、今回A社は20台まとめて注文するかわりに、22%という大幅値引きを要求してきました。22%の値引きを呑めば、売価は780万円となります。これは予定原価を下回る金額で、販管費も考えれば大幅赤字案件だといえます。これが、工場長が受注に反対している理由です。

 一方営業部長は、主力ユーザーの要求にはぜひとも応えたいですし、年商がおよそ20億円の荒製作所にとって売上1億5600万円はとても大きい金額だと主張しています。さて、仁はどのような経営判断をしたらよいのでしょうか。

どちらの言い分ももっともだニャン

 工場長が受注すべきでないと主張する根拠は、「予定原価>売価」、つまり赤字案件であるということです。これは至極当たり前の議論に見えますが、実際にはそうではありません。なぜなら、予定原価の中には、今回売上げる製品に直接かかわる費用(材料費や外注加工費など)だけではなく、今回受注(生産)するかどうかに関係なく発生する費用(工員の労務費や水道光熱費など)が含まれているからです。

 管理会計では、売上高に連動して変化する費用を「変動費」、売上高に関係なく発生する費用を「固定費」と呼びます。そして、売上高から変動費を引いた金額を「限界利益」と呼びます。

「限界利益」ってよく分からないニャン

 たしかに、限界利益という言葉は、わかりにくいですね。きっと英語(marginal)の直訳だからでしょう。利益の総額ではなくて、売上高が増えた際の利益の変化分という意味で、「増加利益」とでも呼べば少しはわかりやすくなるでしょうか。

 

 話を本題に戻すと、個別の受注判断の際は限界利益がプラスかどうか、が重要となります。限界利益がプラスであれば、その分固定費を回収できるわけであり、生産しないよりは生産した方が会社の利益は増えます(工場の生産能力に余裕があることが前提ですが)。

「売価>変動費」であれば受注すべきニャン!

 漫画のシーンに戻ると、今回の案件は、「売価>変動費」ですから、「受注すべき」というのが結論となります。

 ひとつ注意すべき点は、変動費を正確に算出することは多くの会社にとってむずかしいということです。しかし、材料費と外注加工費を変動費とみなすことで、実用的な判断は十分に可能です。

 会計には大きく、財務会計と管理会計の2種類があります。決算報告書は財務会計の考え方に基づくものです。一方、経営上の意思決定を助けるのが管理会計です。会計と日々の経営(意思決定)の関係がどうも腑に落ちない、という経営者の皆さんには、管理会計について勉強してみることをお勧めします。

管理会計、勉強するニャン

-コラム, 中村 晋